おっさん、ロングに手を出す 〜優しさって何ですか〜

サーフィン

ショートボードで踏ん張っていたあの頃、僕はまだ“気合と根性”が通用する世界だと思っていた。

でも現実は——

アウトに出られない。

いやほんと、笑えるくらい出られない。
一回乗れたくらいで調子に乗ってた自分を殴りたい。
胸反れない、ぐらつく・・・
ゲット(沖に出る動作)で体力ゲージは空っぽ。

「これ、もう修行やん…」


「これはもう、体力や。筋肉や」
そう思い込んだ僕は、筋トレを始めた。

時代はまだ、スマホもYouTubeも無い。
“サーフィン 筋トレ”で検索なんて夢のまた夢。
だからやることは、シンプルかつ昭和的。

仕事を定時で終わらせて、ジム直行。週3ペース。

マシントレーニングして、水泳して、プロテインもよく分からんけど飲んだ。
胸板と背中がちょっとだけゴツくなった。
(でもパドルは相変わらず進まなかった)

ちなみに、そのジムの受付にいた女の子が、
びっくりするほど可愛かった。
「おつかれさまでーす」って言われるだけで、
今日は来てよかった、って思えるくらいに。

…でも、その笑顔はどうやら全会員に平等に支給されていた模様。


そんなある日、会社の後輩のAとつるむようになった。

Aとは、昔からの付き合い。
合コン、⚪︎俗、ナンパ・・・いろんな場面で肩を並べてきた、いわば同志。

Aがサーフィンを始めた理由も、
「モテたいから」
という、あまりにも正直すぎる動機。
だからか、気が合うんだよなあ、そういうヤツとは。


Aが乗っているのは、ロングボード
僕がヒーヒー言いながらゲットしてる横を、
Aは悠々とパドルアウト。どう考えても追いつけない・・・

「先輩、一回乗ってみません?」
と軽いノリで貸してくれたロング。
乗ってみたら、これがもう…

「何じゃこりゃ? 楽すぎるやん…」

パドリングがスイスイ進む。
安定してるから、パドルがしやすい。
立てる、というより、コケない・・・
そして、何より「アウトに出れた」(これ重要)

ショートのときは、毎回サーフィン後に「今日も出れんかった」って
心を砕かれ、帰りの車中は無言の日々(涙


その週末、善は急げと世田谷のシーコングに向かった。
「初心者向けで、しっかり使えるやつを」と店員さんに伝えると、
勧められたのは紫色の9’2″の新古品

聞いたことないブランドやったけど、オーストラリアのブランドだそうで、
そこがまた渋く感じて「これや」と即決。

こうして、僕はロングボーダーになった。


ロングボードのいいところ

・グラつなかいから、パドリングがスイスイ進む。
・安定してるからコケない、立てる!なので初心者でも“できる風”が出せる(←これ地味に大事)

ロングボードの哀しいところ

エレベーターに乗らない。
・部屋の片隅で、存在感がデカい。
・掘れた速い波、怖い・・・もうただただ祈るだけ。


それでも僕にとって、ロングとの出会いはひとつの“救い”だった。

モテたくて始めたサーフィン・・・
「あれ?これ、俺もちょっとサーファーっぽいやん」って初めて思えた。

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